Japanese translation by Shinobu Kinoue
and coordinated by Director DFI
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2007 年11月、ろう者であるムハンマド・アクラムは、観光旅行での体験談を話して欲しいという依頼を受け、『障害者も利用できる観光旅行に関する国際会議』に 招待されました。この会議は、タイのバンコクにある国連コンベンションセンター(UNCC)で開かれ、観光スポーツ省、社会開発と人間の安全保障省、バン コク都庁、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)、そして国際アジア太平洋障害者(DPI-AP)の合同主催で行われました。
この会議で、彼は「聴覚障害者の考える観光旅行」という論文を紹介しました。
ろう者のニーズは、障害者のために行われている活動の中でも、これといった対策をとってもらえないままになっています。さらに難聴者(HOH)の存在は、 無視されているも同然の扱いとなっています。この冊子が、公共の場や旅行業界だけではなく、障害者のための活動の中においても、聴覚障害者のニーズに対す る意識の向上に繋がることを望んでいます。
この情報に著作権はありません。著者と団体(DANISHKADAH)の名前を明記すれば、この情報を他で公開することができます。
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ムハンマド・アクラムはパキスタン出身、ろう者です。彼は1992年からITの分野に従事しています。2000年には、障害を持った人々(PWD)のサポートを始めました。彼自身がろう者であるため、そういった人々の抱える悩みや障害をよく理解しているからです。
彼はここ7年の間、ろう者や他の障害を持った人達と関わってきました。アジアや中東、そしてヨーロッパの9ヶ国をまわりました。彼は、国内向けのものから 国際的なものまで、様々なセミナーや会議に出席し、さらに、PWDとして活動している地元の団体や国際的な活動を行っている団体を積極的にサポートしてい ます。
2004年、彼はインドネシアに行き、ボランティア活動をしました。2005年には、障害におけるアジア太平洋開発センターによって、『利用可能なウェブ とウェブベース・ネットワーキング』のコースに選ばれました。
2006年には、補習コースに再度選ばれ、さらにUN ESCAPセミナーでプレゼンをする機会に恵まれました。2007年には、欧州評議会の協力の下、聴覚障害青少年国際連盟によって企画された、リーダー シップの勉強会に選ばれました。現在、彼はパキスタンに住む障害者達が情報を得やすいように働きかけており、このことについて本も書きました。
彼は以下の人達・団体と共に活動しています。
創設者兼会長…Danishkadah(パキスタン)
共同創設者…Sindh障害フォーラム(パキスタン)
アシスタント・ディレクター…Deaf Friends International(アメリカ)
アドバイザー&スペシャル・プロジェクト・コーディネーター…Pakistan Association of the Deaf(PAD)
ボランティア…Matahariku(インドネシア)
ボランティア…Deaf Tour Assistance Philippines(フィリピン)
ボランティア…Heaven Care Resource Center Inc.(フィリピン)
また、パキスタンのDPIに、情報長官として1年勤めました。
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旅行者は度々、ビザやその他の手続きのため、大使館を訪れることがあります。したがって、海外旅行者にとって、大使館や領事館がどれほど利用しやすいかということは、重要なことです。
私の国では、少なくとも大使館2ヶ所で、受付窓口の窓の暗さが原因で、コミュニケーションの障害に直面しました。受付の窓が暗いと、中にいる人が良く見え ないため、唇の動きを見て相手の言葉を理解することも、体の動きを見ることもできません。これはろう者や難聴者にとって、大変大きな問題です。
私達は安全問題に関しては理解できますし、ほとんどの大使館役員は優しく親切です。しかし、問題はそこで働く一般職員の方々です。したがって、職員の指導をお願いしたいです。
2つ目の問題は、多くの大使館・領事館が首都内のみにいくつも存在することです。ろう者がビザの手続きのために首都に出向く時、通訳を連れて行かなければ なりません。そのため、通訳者の分の飛行機代や列車代、さらにホテル宿泊費や食事代なども負担せねばならず、これは大変な出費となります。
当然ながら、政府は無料で通訳サービスを行うか、大使館側がコスト負担して通訳者を呼ぶべきです。また、ろう者/HOH協会は、通訳サービスを設けるよう努力すべきです。
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何よりも安全が第一であり、すべての航空会社は安全のしおりを準備しています。安全のしおりを必死になって読んでいる乗客はあまり見かけませんが、万が一に備えることはとても重要なことです。
絵や言葉で書かれた安全のしおりは飛行機に準備されていますが、ろう者が通常使用している言葉は、話し言葉ではなく手話なので、安全のしおりに書かれてい る内容を理解できるろう者は多くないのではないかと思います。したがって、安全のしおりに書かれている注意事項を、手話で説明してもらうことが重要になり ます。
安全のしおりの注意事項を、手話も使ってビデオで流すべきです。嬉しいことに、いくつかの航空会社(トルコ航空など)は、手話で通訳したものをビデオで流しています。しかし多くの航空会社はこれを行っていません。
IATAが、世界ろう連盟協議会(WFD)の国際手話を使って、機内での注意事項を流す方法を考えることは可能であると、私は考えています。また、IATAと政府は、ろう者たちの安全確保のための方針や条例を定めるべきです。
このプレゼンの準備をしている時、オランダから来ていた私の友人であり難聴者の、カリナ(IFHOHYP―難聴者国際連盟の代表者)とクリスティ・メン ヒールと話をしました。難聴者は、わずかに残った聴覚に頼って生活しており、補聴器や人工内耳を使っています。彼らがきちんと言葉を理解するには、雑音な どのない状態で、はっきりとした音声が必要です。クリスティは「飛行機で長距離を移動する時には、席の前に小さなTVがあって、それにはヘッドフォン用の プラグが付いているけれど、それはループシステム用には作られていないの」と言いました。航空会社が、映画を字幕付き(解説付き)にしたり、ループシステ ムも使用できるようにすることで、HOH観光者がもっと機内で快適に過ごせるようになります。
映画を解説付きにする必要があります。これは映画プロデューサーの責任です。乗客である、ろう者や難聴者のために、航空会社にはそれを要求する権利があります。
私は『センター・フォー・ヒアリング・ロス・ヘルプ』のニール・ボーマン博士と、機内のループシステムについて話しました。博士は「この問題の簡単な解決 方法は、ネックループを使うことだ。ネックループをイヤホンのプラグ差し込み口に差し、補聴器のTコイルのスイッチを入れさえすれば、あとは思う存分、音 楽などを聞いて楽しめる」と言いました。博士の話では、補助器具のさらなる活用方法を知っている難聴者は多くないそうです。これは、ろう者、難聴者のため に色々な手を尽くしてくれる人達に限った問題ではありません。時には私達が自分達の力でできる努力もする必要があります。ネックループや音楽を楽しむため の器具は、そんなに値段の高いものではないのですから。
この話によって、私達も要求ばかりしていてはいけないんだ、ということを改めて考えさせられました。ろう者や難聴者自身も、様々な解決方法を考えていく必要があります。障害者連盟(DPOs)なども、補助器具や問題の解決方法について、障害者を指導する必要があります。
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PWDsに参加するようになったので、私はよく列車で移動しなければなりません。その際、駅には視覚で分かるような表示システムがないので、とても困りま す。前回私がろう者の団体を訪問した時、帰りの列車が遅れました。私はスピーカーからの案内が聞こえず、その列車の到着時間について知ることができなかっ たため、その列車を逃してしまうのではないかと思うと、待合室で落ち着いて待っていることができませんでした。そのため私は心地良い待合室ではなく、プ ラットホームで、3時間ずっとその列車を待つことになりました。
私は海外でお金の節約をするため、バスを使うことがありました。私はそこがどこか分かっていましたし、行き先や乗るバスの番号も分かっていました。
バスに乗って最初に困ったことは、運賃が分からなかったことです。私はその運転手に地図を見せ、行き先と、私がろう者であることを告げました。そして運賃 を教えて欲しいと言ったのですが、その運転手は気が短く、それに対応してくれませんでした。私は自分がろうであることをとても悲しく感じました。私の隣に 座っていた他の乗客がその状況に気付き、私が手に握っていた小銭からその運賃分の料金を取り、チケット販売機にお金を入れてくれました。
席に座ることはできたのですが、さらに困ったことが起きました。私は行き先の町が初めてだったので、どこでバスを降りたら良いのか、視覚的に分かりません でした。毎回バスが止まるたびに、「ここはどこだろう?ここが私の降りなければいけないバス停かな?」と考えました。とても不安でした。
このような嫌な体験をした後、私は海外でひとりでバスを利用したり列車で移動したりすることをやめました。しかし去年、香港で市内電車を利用した時には、 何も不自由を感じませんでした。とても分かりやすい表示システムが設置されており、現在地や列車の行き先、さらに次に止まる駅名などが分かるようになって いました。そのような表示システムはとても助かるので、すべてのバスや列車がそのような表示システムを設置するべきだと思います。
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旅行において、ホテルやゲストハウスが利用のしやすいかどうかという点は、とても重要です。「このホテルの部屋で安全に過ごせるのだろうか?」と。ろう者 の私は、津波や地震の後では特にこの点が心配になります。率直に言うと、緊急事態になった時、ろう者がホテルの部屋で安全でいられることはありません。ろ う者に知らせるための警報システムはないのです。そして誰もこの問題に対して、真剣に取り組もうとはしていないように思われます。
別の問題は、ホテルの部屋には視覚でとらえることのできる警報器がないことです。これはろう者にとって、大きな障害になります。2004年、私はマレーシ アにいました。ある人が市内観光のため、私を迎えに来ることになっており、その人がホテルに着いた時に私の部屋のドアをノックしました。しかし私はろう者 なので、警報器もノックの音も聞こえませんでした。彼は私を部屋から連れ出すため、警備員に連絡しなくてはなりませんでした。
この問題の解決方法はとても簡単で、安価です。視覚で分かるようになっている、振動する警報器を市場で買うことができます。ろう者の泊まる部屋で、ワイヤ レス・システムを利用することも容易です。あとは、ホテル業界と政府の法律や政策などによる、この問題に対する取り組みが必要なだけです。
ホテルには必ず、フロントや他の部屋へ連絡が取れるよう、室内に電話サービスがついています。しかし、ろう者はこのサービスを利用できません。ろう者がフ ロントに用事がある時は、直接そこまで行かなければなりません。他の部屋にいる友人と連絡を取る時も、その友人の部屋まで直接行くことになります。
最近では、テキストメッセージを送ることのできる電話が販売されています。私の国ではそのような携帯電話が約32ドルで販売されており、それを購入する と、テキストメッセージを無料で利用することができます。ホテルでも、ろう者が利用できる、そのような電話を設置すると良いと思います。
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最後にお伝えしたいことは、障害とはあまり関係のないことですが、観光旅行という観点から重要なことになります。食に関しては、人それぞれ、好き嫌いを始め、ハラール、コーシャなどの宗教的食事規制のある人、そして菜食主義者など色々な違いがあります。
イスラム教徒である私は、常にハラールの食事をしなければなりません。そのため、海外旅行中は大変です。例えば、おそらくこれはハラールの食べ物だろうと 思われるような食べ物でも、きちんとした確認ができなければ、食べることはできません。食事規制のある方は、きっと私と同じような体験をされていると思い ます。
多くの食べ物はハラールに含まれています。しかしそれでも、私達は食べる前にその材料を確認しなければいけません。もし食べ物に『ハラール』の印がついて いれば、安心して食べることができます。私達にとって、食べ物に含まれている材料すべてを調べなくて済むよう、その印が必要です。また、こうすることに よって、食品を売っている企業も売上を伸ばすことができます。
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インドネシアに行った時、私は空港にPWD専用カウンターがあることを知らず、利用することができませんでした。もしかしたら他の国にも同じように、この ような特別施設があるのかもしれませんが、旅行会社も知らないのかもしれません。このようなことから、私は『利用しやすい観光旅行ポータル』を提案しま す。このようなウェブサイトはすでにありますが、私達はアジア太平洋の国々を中心に活動することができます。もしこの活動に参加したいという方がいらっ しゃいましたら、私の団体、Danishkadhが全力でサポートしたいと思っています。